小説『超大企業社員Nの人生』vol.6 リタイア

信仰生活について

第六章 リタイア

超大企業で働き続けたNであったが、ついにリタイアの時が来た。Nはこれまで直接会うことのできなかった社長から慰労のパーティに招かれ、社長がいる国の、社長がいる巨大な土地に向かうのであった。

パーティ会場に着くと、Nは大きな宴会場に通された。どの席にもなんとも豪華な食事が置いてあり、Nが人生で食べたどんな食事よりも豪華であった。

なにより驚かされたのはそのスタッフの数であった。パーティに招かれた人もやはり世界中から来るだけあってそれなりに多かったが、スタッフの数は優に招待客の十倍はいた。そしてスタッフも皆おしゃれな服を着ており、下手すると招待客の服装よりも輝いているくらいであった。

さて、前方には大きな舞台があり、Nの席は舞台のすぐ近くではないにせよ、そう遠くもなかった。舞台の近くには立派そうな人が並んでいたので、席順はある程度功労に従って決まっているのだろう。

舞台の近くの席にどこか見慣れた後ろ姿があったが、立派な服を着ているので、人違いだったら恥ずかしいと思い、声をかけるのはやめた。その人は自分が若い時から、いや、それ以前からその人は長く尽くしてきたのだから、社長にとっても自分よりもよほどの功労者に違いなかった。その人がいなければ自分は今ここにいないのだ。

ほどなくしてパーティーが始まった。まるでテーマパークのように花火まで打ち上がった。そしてラッパの音と大きな拍手と共にあの社長、何度もモニターごしには見たことあるが、決して対面では見ることのなかった社長が舞台に登場した。

社長は実際に見ていると思ったよりよほど背が高く、若々しく、かつ顔立ちも整っていた。まるで王か貴族のような雰囲気さえ感じられた。社長の声も不思議だった。無論これだけの大きな会場なのでマイクを使っているんだろうけども、マイクで音声を大きくしたというよりは、心に響いてくる感じがした。

話は長くはなかったが、短くまとめるなら、以下のようなものだった。

「皆さんの中には若い時から私のために働いてくれた人も、ある程度年を重ねて力をつけてから働いてくれた人もいるでしょうが、全ての方々に同じように感謝を伝えたいと思います。

皆さんは私にとって家族同然です。幸いここには土地がたくさんありますから、皆さんさえよければ、ここに家を建てて移り住んでいただいても結構です。家を建てるのも皆さんの功労へのねぎらいとして費用をお出しします」。

そこはこれまで自分が住んでいた場所と比べて全てが良かった。自分の家への愛着を鑑みても比較にならなかった。Nは受け入れ、移り住んでその先の人生を過ごしたのだった。

-Fin-

この作品のシリーズはこちら

タイトルとURLをコピーしました